確実な印鑑

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できるだけスピードをあげないといけない、これまでのようなゆっくりとしたペースで準備していてはダメだという思いも強くなってきました。 たとえばその一つが郵便小包です。
Y運輸が宅急便をやりだしたのは1976年、落ち込んでしまいました。 公社化されてから「Y」を伸ばさなければならないということで、随分とリニューアルもして、反転攻勢をかけました。
それで8%近くまでシェアを戻してきた。 しかし、現在も、小包市場はY運輸とS急便の2社で6割程度のシェアを占めています。
寡占状態といってもいいでしょう。 今後、どのようにして、もう一段、一段の巻き返しをしていくのか。
大きな課題です。 今さら言っても始まらないことですが、民間業者が参入したのだから、なぜもっと早く改革に取り組まなかったのか。
郵政事業の随所にそういうところが見られるわけです。 もっと早く手を打てば、状況は違っていたはずなのですが、官営事業ではあまり危機感が起きてこなかった。

やはり、官の事業というのは、本質的に、改革意欲、あるいは競争力強化という意欲が起きにくいものなのかもしれません。 そこに民営化する意味合いの一つがあるわけでもあります。
事業についての説明を聞く過程では、何と言っても私は民間銀行出身ですから、民間との対比において、どうしなければいけないかというようなことを随分と言いました。 たとえば、郵便局窓口での投資信託の販売は、今後の中核事業の一つですが、私の経験からして、やはり投信販売について経験のある人を外部からできるだけ多く入れて、その人たちが中核となって、郵便局の方々にいろいろと指導していくのがいい。
法的には、証券外務員資格という資格を取れば投資信託の販売はできるのですが、資格を取っただけでいいというものではありません。 お客さんへの対応一つとっても、経験者のアドバイスを受けながら、実践を積んでいくのが、よい結果を出すための一番の早道です。
ただ、東京、大阪、名古屋という大都市圏でそういう経験者を募集しても、なかなか人材は集まりません。 そこで、投信販売の現場となる各地方で募集すれば集まるのではないかと話をしましたが、なかなか重い腰が上がらなかった。
ほかにも、いろいろと思い描いたことを公社の幹部に話すのですが、「そういうこともやらなければいけないでしょうね」と言うだけで、なかなか真剣に取り上げようとしない。 ことの重要性は分かっているのだろうけれども、どうしても、自分たちのペースを守ってやっていきたいということを変えられないのでしょう。
また、2007年8月の民営化までは、日本郵政公社と日本郵政株式会社の二元体制だったため、どうしても動きがとりにくいという面もありました。 2007年4月からは、日本郵政の社長と公社総裁の二つのポストを兼務することになったので、大分解消されましたが、「しょうがない、本格的にスピードをあげられるのは民営化した4月以降だ」と、覚悟した時期もありました。
ビジネスの勝負どころスピードだというのが私のモットーです。 そのため、ちょっとカツとなって、郵政のスタッフを怒鳴ってしまったことも何度かありました。
もちろん、民間企業でも、動きが遅いところは遅いものです。 民間企業の場合は、競争に負けたら市場から退場させられてしまう。
企業の存続そのものが危うくなってしまう。 それが嫌ならば、スピードを上げて全力で取り組むしかありません。
その点、官の世界は、一人一人の能力を見れば、民間企業以上に優秀な人も少なくないのですが、総じて組織になると動きが遅いという印象を受けました。 どこを向いて仕事をしているのかまた小さいことかもしれませんが、郵政公社も日本郵政も、始業時間が9時半というのはおかしいと思いました。

郵便局は全国どこでも9時から開いています。 それなのに、本社が始業していないというのは、民間企業では考えられない。
銀行でもスーパーでも、店舗がオープンするときには、当然本社のスタッフも揃っていて、お客さんや各店舗からの問合せや相談に対応できるようになっています。 少し前に、交通機関の渋滞緩和を目的として、行政機関がオフピーク出勤を主導したことがありました。
郵政省もそのときから9時半始業になったそうです。 そのことは意味のあることだったと思うのですが、他の官庁と違って、直接お客さんに接する仕事である以上、それではどっちを向いて仕事をしているのだ、ということになります。
やはり遅くとも8時別分ぐらいには始動していないといけない。 民営化する以上、組織のこういうところも変えていかなければいけないと思っています。
しかも、これも伝統なのか、A3判の資料が多いのです。 そこに、説明がオモテウラ両面にびっしり書き込まれている。
そこで、私は「お願いだから、資料の用紙をまずA4判にしてくれ」と指示を出しました。 銀行時代も、私は「会議資料はA4判で2,3枚にしろ」と口を酸っぱくして言っていました。

もっとも銀行時代も、2,3枚の資料のほかに、結局、付属資料がついてくることが多かった。 知っていることを全部書きたいという担当者の気持ちは分からないではない。
ト官特有という点では、紙の量がやたらと多いことにも閉口しました。 社長になって始まった説明会では、毎日毎日、ものすごい分量の資料を手渡されました。
とても読みこなせるボリュームではありません。 また説明するほうも、書いてある内容をすべて読み上げていたら、時間がいくらあっても足りません。
そこで、その中からとびとびに説明することになるのですが、そうすると、あとになって内容を確認しようと思っても、資料のどこに何が書いてあるのかが分からない。 ツプにそれを分かってもらいたいという気持ちもあるのでしょう。
それでは、かえってポイントがうまく伝わらず、逆効果になってしまいます。 また、こういう膨大な量の文書は、会議で配られるだけでなく、本社からの通達である何十ページ分にもなります。
はっきり言って、現場の処理能力を超えた分量です。 それでも最近は、A4判の資料が増え、ボリュームも減ってきましたが、まだまだ改善していく必要はあるでしょう。
中に入って実感した「現場力」郵政内部の人間になって驚いたことは、もちろんネガティブなことばかりではありません。 何よりすごいなと思ったのは、郵政の「現場力」です。

お客さんの支持を獲得する競争をしている社会においては、現場に近い企業ほど強いというのが、現在のセオリーです。 また、お客さんの支持を獲得することに敏感な企業においては、現場に近い部署ほど大きな発言力を持っているのがふつうです。
私自身も銀行時代から、経営では「現場力」が最も重要であると考えてきたのですが、日本郵政の社長になり、郵便局が持っている「現場力」のすごさを実感させられました。 社長就任以来、南は沖縄から北は北海道まで、できるだけ時間を見つけて、各地の郵便局を訪問してきましたが、地盤や環境などが違う中で、郵便局はとても地域に溶け込み、それぞれの個性を発揮している。
郵便局長をはじめとして郵便局のスタッフは地元で生まれ育った人が多いので、お客さん一人一人をよく知っているし、お客さんからも頼りにされている。

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